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Career Advice

女性の地位向上に欠かせない経済インパクト~エンパワーメントを支えるマイクロファイナンスの可能性

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 いまでこそ女性のエンパワーメントについて論じるならば、経済力の獲得および生活基盤の構築を重視した視点は不可欠だが、その背景にはマイクロファイナンスによる支援形態の出現があったことは間違いないだろう。

 ドナーからすれば成果の見えない一方通行の援助と異なり、マイクロファイナンスでは、投資した資金が持続性をもつだけでなく、収益を上げもする。マイクロファイナンスのパイオニアでもあるグラミン銀行の成功は、開発業界にとって画期的であった。

 

 日本の開発コンサルティング会社、㈱アイ・シーネットにシニアコンサルタントとして勤める粟野晴子さんもまた途上国の経済問題を研究する中で、女性の問題への関心を抱くようになり、次第にマイクロファイナンスに注目するようになったが、その経緯についてこう述べる。

 

 「女性のエンパワーメントという課題にもいろんなアプローチがありますが、私自身が女性ということに加え、これまでの教育や職場、結婚、育児といった経験の中で、経済的な地位が女性に与えるインパクトは大きいと思ったからです」

 

 アイ・シーネットに勤務する前は、メーカーや通訳の仕事をしていたが、国際関係への興味から立命館大学の国際関係学部に編入。さらに途上国の女性への経済活動を支援するマイクロファイナンスの研究を深めるべく神戸大学の大学院に進んだ。

 

 研究を進める中で培った観点はふたつ。ひとつめは、「途上国女性の生活のニーズに基づいたアプローチを行うことで、地位向上に貢献していく」。つまり、女性と男性の関係性に着目した上で、まずは女性の現実的なニーズに応えていくアプローチである。

 ふたつめは、マイクロファイナンスの金融サービスとしての可能性だ。初期のグラミン銀行を金融機関としてとらえた場合に浮上した「持続性」に関する疑問から、マイクロファイナンスを援助プログラムではなく、金融サービスとして捉えたとき、どういう可能性があり、またそれを実現するために必要なこととは何か。

 これらふたつの視点を得た上で、97年に修士課程を修了。98年からは国際開発高等教育機構(FASID)のマイクロファイナンス研究プロジェクトに参加し、ジンバブエのマイクロファイナンス機関の調査を行ったほか、日本大使館の草の根無償によるマイクロファイナンス支援案件発掘に従事した。その後はマイクロファイナンスに実務の側面から関わってきた。

 

 ジンバブエでは、日本の厚生労働省にあたる厚生福祉労働省の零細事業振興局がマイクロファイナンス機関に貸付け原資を融資していた。粟野さんは、01年からJICA専門家として担当局に加わり、政府の支援する金融機関への融資管理や財務管理を指導した。また政府が原資を貸し出す際に用いる審査ガイドラインの改訂作業を行いつつ、マイクロファイナンスのインパクト調査を全国で行った。

 ここでいうインパクトとは、実際にマイクロファイナンス機関の融資を受けた貧困層の変化のことで、所得を含む生活向上、家族の中での意思決定のプロセスなどを調査したという。

 

 「全般的には所得向上効果が見られた。けれども女性の社会的地位の向上については、具体的な成果があったかどうかは判断が難しい」と粟野さんはいう。

 

 グループ融資をマイクロファイナンスの特徴として挙げることができるが、地域において貯蓄をし、融資を受けるグループが形成される中、女性たちはビジネスだけでなく、従来なかった生活一般の情報交換の場を獲得してきた。それを社会進出の一端を得たと見ることはできる。

 また、そういった活動の中で女性グループが地域活動にも参加するようになったことは、大きな変化であり、マイクロファイナンスの効果といえる。

 

 ところでジンバブエにあるマイクロファイナンス機関のグループ融資の被融資者は、圧倒的に女性が多数であった。それには男性の出稼ぎ率の高さや男性が個人融資を好む傾向が影響しているが、粟野さんによれば、「グループを組んでの連帯保証という形態は、女性のほうがなじみ易かった」という経緯もありそうだ。

 所得向上効果があった点で、マイクロファイナンス機関の持続性は認められたといえる。たしかに経済力の上昇をもって女性の地位の向上を計ることは難しいが、粟野さんは、「地域活動への参加や家庭での発言力など、少しづつの効果はある」と考えている。マイクロファイナンスは、女性のコミュニティの紐帯を深める上で確実に機能しているといえよう。

 

 その後、粟野さんはモンゴルで畜産関連業向けのマイクロファイナンス新商品の提言を目的とした国際協力銀行(現JICA)の調査や、サブサハラアフリカでの零細事業を対象としたマイクロファイナンスの調査を実施。そうした経験を踏まえた上で、日本の組織がマイクロファイナンスに関わる上での課題を挙げる。

 

 「たとえば、JICAがマイクロファイナンス専門の協力を多く行っているわけではありません。海外のドナーに比べると、日本は農村開発などの援助をする中で、コンポーネントとしてマイクロファイナンスを使うことはありましたが、現在のところ、マイクロファイナンス独自の技術協力は限られています。一方、マイクロファイナンスに対する支援はそれに関わる人材育成が求められています。」

 

 大和證券がマイクロファイナンスの債券投資の商品を発売するなど、日本でもマイクロファイナンスを巡る新しい動きが見られるようになった。粟野さんは、学術界はともかく、ビジネスや開発業界において、まだ関わる人の少ない中でキャリアを築いてきた。その経験から今後、「研究ではなく実務をやっていきたい」と考えている人にこうアドバイスする。

 

 「マイクロファイナンスは法整備や財務をはじめ、いろいろなアプローチがありますが、一通りの基礎知識を押さえた上で専門性を深めていくのがいいでしょう。また、日本は技術的な先進国ということもあり、マイクロファイナンス事業を運用していくために必要な情報技術インフラの面での支援が求められており、こうしたアプローチで専門性を磨くこともできるでしょう」

 

 また、地銀や信用組合など零細企業へのサービスや融資を重視している機関での経験は強みになるという。

 「また、海外のマイクロファイナンス機関インターンを行うなど、とにかく海外の現場経験を積むのがいい」という。

 

 女性のエンパワーメントに関心を払ってきた粟野さんだが、自身のキャリアを築くことと、結婚生活や子育ての兼ね合いに葛藤を覚えたこともあったという。

 

 「いまは結婚して子どもを生んで職場に復帰する人も増えていますし、パートナーの仕事への理解も進んでいるようで、女性も働きやすくなっていると思います」

 

 粟野さんは、国際協力の業界に働く女性、マイクロファイナンスの専門家という二つの側面からパイオニアとして活躍してきた。 今後も日本のマイクロファイナンス市場の成熟を見守り続け、実務家としてマイクロファイナンスによる途上国の人々の生計向上を応援し続けていくという決意がまなざしからうかがえた。 JPN

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尹 雄大
ライター。1970年、神戸生まれ。「AERA」や「Number」などで執筆。〈考える高校生のためのサイト mammotv〉でインタビュアーを務める。著書に『FLOW 韓氏意拳の哲学』(冬弓舎)