外務省によると、2006年1月時点で国連機関で働く邦人職員は671人で、国連教育科学文化機関(UNESCO)が54人でトップを占める。しかし、国連通常予算から算出される望ましい職員数と比較すると、非常に少ないのが現状だ。国際舞台で働く日本人を増やすには何をすべきなのか、そして、日本人が世界で活躍するのに求められる資質は何か。これまで、国連開発計画(UNDP)東京事務所長、在ウラジオストク総領事、駐アゼルバイジャン特命全権大使などの要職を歴任し、長く世界で活躍してこられたアジア・太平洋国会議員連合(APPU)の廣瀬徹也事務総長にお話を伺い、後輩に向けたアドバイスをいただいた。—約40年にわたって、国際舞台で活躍してこられました。 1963年に京都府立大学卒業後、語学研修生(現外務省専門職) として外務省に入り、トルコ語を専攻した。当時はまだ日本人が簡単に海外に出られる時代ではなく、外国に出たいという気持ちと、シルクロードや地中海地域に対する関心が合わさる格好となった。トルコでの研修後、イスラエル、米国、カナダ、ロシア等で勤務し、2000年には初代駐アゼルバイジャン大使に任命された。 1979年から2年間、国連開発計画(UNDP)東京事務所長を務めた。パンフレット作成や講演会開催など、当時まだほとんど知られていなかったUNDPに関する国内広報活動が中心だった。また、外地に赴任する日本人職員やアソシエート・エキスパート(AE)、ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)の世話に加え、UNDP関連機関から訪日する職員や研修生のプログラムのアレンジなど、裏方の仕事が多く、この点は、開発プロジェクトを実際に手がけるUNDP現地事務所との大きな違いだろう。 2002年に外務省を退官し、2005年春からアジア・太平洋国会議員連合(APPU)の事務総長を務めている。APPUは東・東南アジアと・太平洋の23の国と地域の議員からなる組織で、各国間の友好親善強化、自由と民主主義に基づくアジア・太平洋地域の平和と安定の確立や域内の諸問題の解決に向けて活動している。これまで外交官として培った知識と経験を、何らかの形で社会に還元するのが自分の務めだと考えている。—国際機関で働く日本人の数が少ないとよく言われます。 当時から日本人職員数は少なかった。特に、女性には機会が限定されていたので、やる気のある若い女性の支援に尽力したのを覚えている。時代とともに状況も変わってきているとは言え、まだまだ日本人スタッフの数が少ないように思う。もっともっと出て行っていい。 日本には若手に国際機関で2年間の経験を積ませる、外務省主催のAE/JPO派遣制度がある。受験に向けては、国連機能や政府開発援助(ODA)に対する考え、そして最近、開発分野で話題になっている事項の説明など、幅広い開発に関する知識が問われるので、事前に勉強しておくこと。そして、合格しても、そこで安心してしまわず、後進に道を開くという気持ちで、赴任先で是非、力を発揮して欲しい。勿論、そのポジションに残れるかどうかは、採用側の内部事情も多く関係してくるが、自分だけのことではないという気概で頑張ることが大切。—これまでのご経験から、海外で働く日本人についてどう思われますか。 日本人の強みは何よりも真面目さ、責任感が強いこと、組織力、協調性だと思う。他の国の人と比べても、日本人はチームのメンバーとして働くことに秀でている。一方で、もう少し自己主張する必要があるだろう。現在、國學院大學法学部で大学生にイスラーム地域研究を教えているが、授業中に発言する学生が少なく、全体としておとなしい感じを受ける。国際舞台では、何よりも積極性が求められる。—国際舞台で働くのに必要となる資質な何でしょうか。 語学力は必須で、英語はできて当然という世界。しかも、自分の考えを論理的に説明できなくてはいけない。国際舞台では、日本語のあいまいさは通用せず、日本人同士の「言わずもがな」といった感覚は存在しない。英語に加えて、自分が得意とする外国語があるといい。その場合でも、特に話す力・書く力が重要。国連組織内部でも、いかに美しく文章をまとめられるかで、出世の具合が違ってくるようなこともあった。 また、それぞれ個性が強く、価値観の異なる多国籍の人が集まる国際機関では、職員間の競争は避けられない。それだけに、プレッシャーに押しつぶされず、それを跳ね返す強靭さ、競争に耐えうるだけの精神的タフさが必要。時にはプレッシャーから解放される瞬間が必要になるので、何か趣味を持ち、自分をうまくコントロールすることも大切だろう。 自分の赴任先について勉強することも重要。特にイスラーム圏に行く人は、偏見の無いように。その国のことは、本を読めばいくらでも勉強できる。知識を増やすことで、将来の仕事の幅、そして現地の人との関わり方が違ってくる。各種国連機関の空席状況、およびAE派遣試験に関する詳細な情報は、外務省国際機関人事センターのウェブサイト(http://www.mofa-irc.go.jp/)に掲載される。