新JICA誕生について

去る2008年10月1日、とうとう新JICA誕生の日がやってきました。新JICAは、旧JICAが実施していた技術協力業務に加え、に旧JBICの円借款部門と外務省の無償資金協力業務が吸収され、年間予算規模は約1兆300億円という世界最大規模の対外援助機関となります。これまでバラバラに実施されてきた各種援助業務の一部が1つの組織の下で計画・実施されるようになることにより、ODAの効率化が促進されることが期待されています。他方、それぞれがこれまで異なる環境及び文化の中で実施されてきた援助形態であることから、その実際の業務の統合に向けては様々な困難や課題が待ち受けていることも予想されています。これまで様々な識者が、新組織における援助手法や組織体制などの側面についての提言を行ってきていますが、ここでは、統合された新組織における実際の援助実施に際しての効率や効果を高める観点から、2点ほど新生JICAに期待する点を指摘したいと思います。その1つは、外部組織や人材活用の方法を改善することです。新組織においては、それぞれの組織において業務を行ってきたスタッフがそれぞれの経験やスキルを持ち寄り、援助手法やマネージメントについての形を作って行くことになりますが、現場での援助実施に際しては、企業や専門家等、外部の組織や人材が担って行く形になることはこれまでと変わりありません。しかしながら、ODAを取り巻く環境が悪化する中で、一部の組織を除いて従来ODAプロジェクトの担い手であった企業や組織が苦境を強いられています。また、開発途上国を巡る課題が多様化・複雑化する中で、各種問題に取り組むことが出来る人材が従来ODAに関与してきた組織や人材ではカバーしきれない場面も多々生じてきています。こうした状況の中で、従来伝統的にはODAに関与してこなかったものの、潜在的に貢献することが出来る組織や個人を、内外を問わず巻き込んで行くことが重要では無いかと考えています。特に外国のリソースに関しては、セクターや地域によっては国内のリソース以上に現地の状況を把握し、プロジェクトを実施した経験を有する場合もありうるため、積極的に活用することによりインパクトを高めることが繋がるケースもあると思います。国内のリソースに関しては、現在JICAが実施している人材マッチングサイトである「パートナー」を、より開かれた使い勝手の良いものにしていくことが、多くの人材をODAに引きつけ、同市場を活性化していくための手段になると思います。2つ目は、競争重視の環境を醸成することです。これは上記の議論にも繋がりますが、より一層外部からの組織や人材を巻き込み、プロジェクトの質を高めるために、国内のみならず、海外の組織・人材をより一層活用していく余地があるのでは無いかと考えています。その方策として、援助のアンタイド化を促進する必要があると思います。現在円借款事業に関しては、一部の日本企業タイド案件を除いてアンタイド化されているため、これに加えて、無償資金協力や技術協力案件についても漸次アンタイド化を視野に入れて行く必要があると思います。こうした議論については、ODAは日本の税金だから、日本のために還元すべきという反論が良く行われますが、公共事業と同様に日本の業者や個人が直接潤うという観点のみの議論では無く、アンタイド化を促進し国際的なドナーと同様のスタンスを促進することにより、日本の国際場裏での地位向上を目指すという観点からも必要だと思います。また、より現地のニーズに沿った援助を実施するという意味において、世界的に最適なリソースを選択し活用し、するという観点からも必要では無いかと考えています。他方、一方的にアンタイド化を進めるだけでは無く、その結果として、他ドナーの援助プロジェクトに日本企業や個人が参画しうる可能性を高めることにより、他ドナーとの互恵的な利益を得る方策を考える必要があると思います。例えばオーストラリアの援助機関であるAusAIDは、2006年にその援助プログラムを全てアンタイド化しましたが、これは一方的に他国の企業や個人に市場を開いたのではなく、欧州連合の援助リソースへの自国企業や個人のアクセスに道を開くための戦略な意思決定でありました。日本は未だ世界第5位の援助大国ではありますが、今後の財政再建方針などを鑑みれば、一層の援助額の低減は避けられず、こうした生き残りをかけた戦略についても考えて行く必要があるのでは無いかと考えています。JPN