「埋蔵技術」を発掘して、日本の技術を世界へ発信する零細企業のチャレンジ。 途上国に必要な技術開発のきっかけはスポーツ大会の開催だった。

人々に快適な生活をもたらすべく邁進していた建設業は、いつしか開発そのものに疑念が抱かれるようになっている。人々は地を削り、海を埋めることに負の要素を感じ始めている。

そうした中、環境と調和した開発を追求しようとする企業がある。SEITOKU CORPORATIONは、建設業に「持続可能性」のベクトルを加えたニュータイプの建設業者である。新築工事を行わない事や、軍隊とも揶揄される厳しい新入社員教育、社員研修の一環としてのカンボジアでの地雷撤去やフィリピンでの植林など、従来の建設業者のイメージとは程遠い。

社員について尋ねた。

「現在、日本人スタッフは3名しかいません。」

「技術を修得して一人前になったら暖簾分け、という職人の間では当たり前の伝統を企業として行った結果です。」

叩き上げの創業者精神が生んだ経営手法だが、その豊富な実務経験は、同社の技術を国内最高レベルへと引き上げた。

「建物の寿命を伸ばすという大規模修繕工事に限って言えば、弊社はゼネコンよりも技術レベルは上。工期も半分近くのスピード。価格も3割程度安い。」阿部氏の言葉には自信が漲る。

しかし、国内マーケットに限界を感じ始めていた。

そんな時、カンボジア政府の依頼を受けて、アンコールワット国際トライアスロン大会を開催した。大会では主催及び運営を担った。

大会は大成功だったが、実は当初この大会に乗り気ではなかったという。ビジネスとして成立する要素を発見できなかったからだ。しかも大手建設業と違い、中小企業にはお金も時間も余裕はない。しかし、社員及び提携会社のモチベーションアップになればと引き受けたのであった。

ところが、トライアスロンは水泳・自転車・ランニングの3種目を行うが、カンボジア政府が提案したコースは、水質基準の数値は芳しくなく、交通量の多さに加え道路の舗装状態がよくない。競技を安全に行えるとは思えなかった。

「どう考えてもこのままでは開催は無理な状態。でも契約したので退けない。」

腹をくくって、準備を始めた。

まず水を浄化する技術を探した。すると、凝集剤を使用すればコストを抑えられることがわかった。しかし同時に新たな問題が発覚した。浄化の際にゴミが出るのだ。廃棄物として処理するにはコストがかかる。そもそも廃棄物を捨てればいいという考えは限界にきている。日本国内の産廃最終処分場が飽和状態にあることからわかるように、問題を先送りする発想でしかないからだ。

解決の糸口はトライアスロンにあった。自転車が安心して走れる道路を整備するには、道路改修工事が必要だ。たまたまNASAの開発した土を固める液剤を知り、これを応用した商材に、水質浄化で生じた廃棄物を混ぜることが可能である事が判明したのだ。

開発にともなう問題を放置すると乱開発になる。開発と環境は並び立たない矛盾をはらむ。しかし、廃棄物を有効利用することで、開発は持続可能な技術となった。はからずもゼロエミッションが達成された。

イベント開催に向けて山積された問題をひとつひとつクリアーしたことで視界が開けた。同時に、阿部氏のNGO時代の体験が脳裏をよぎった。

「途上国で自立のサポートをすると言っても、先進国の市場に依存していたのでのでは真の解決とは言えない。」

「途上国では援助や自立のサポート以外の方法も必要かもしれない。」

「また先進国でも、人々の意識が変わることが、貧困解消に欠かせない。その為には、スタディーツアーのような不定期の体験ではなく、定期的な国際交流の場を創る必要がある。」

そんな阿部氏に閃いたのは、

「定期的にスポーツイベントを開催して、貧困問題を解決していく。」というモデルだった。

現在、カンボジアでは、本業の建築工事業だけでなく、新たな事業として、トライアスロン大会で利用した、水の浄化剤を使って、水ビジネスをスタートさせている。

水ビジネスを始めるきっかけは、カンボジアでの貧困問題にあった。

お金がないから、学校に行けない。

お金がないから、医療サービスを受けられない。

お金がない事が様々な問題の原点にあると考えていた阿部氏は、カンボジア人の所得が向上することを願い、水ビジネスを始めた。

① 日本の隠れた素晴らしい埋蔵技術を発掘し、

② ニーズ・価格・カタチ・マーケティングの全てを魅力的なスタイルにデザインし、

③ 定期的なスポーツイベントの開催を通して、国際交流を活性化させていく、

というモデルが誕生したのである。

①によって、日本国内産業の活性化、

②によって、途上国の人々の所得・生活の向上

③によって、日本と途上国の双方の「心の豊かさ」の向上を目指している。

そして、それが持続可能な方法で行われる事で、日本・途上国・地球のすべてにとって、「三方よし」の関係を築いていくことができる。

阿部氏に開発途上国でのビジネスの成功の秘訣を聞くと、「BOPでは経費も回収できるかどうか分からない為、私もゲストハウスに泊まってるし、食事も屋台で済ますことがほとんど。BOPを始めたいと考えている人は、そんな生活をしても体調を崩さない程度の胃腸とメンタルの強さは必要かもしれません。」

また「ボランティアとビジネスは根本的に大きく違う。自分が良いことをしていると思わないこと。『ビジネスは生きるか死ぬかの戦い』の要素も含んでいる。真剣であればある程、相手側とは必ず揉める。対等な立場でビジネスをするのであれば、お金がなければ死ぬという共通の土台に立って全てをスタートさせなければ、とんでもない目にあう。」という。

そんな阿部氏に今後の展開を聞いてみた。

次はツバルです。ツバルは地球温暖化の象徴であり、土壌の塩害、水不足に直面しています。ツバルでオープンウォータースイミングの大会を開催しながら、世界にツバルの現状をアピールしていきたい。

また、ツバルに限らず、塩害や水不足で困っている国は世界に数多い。小さい企業でも知恵とコミュニケーションで世界を良くすることが可能であることを示す事が出来れば。」と言う。

日本には、高い品質があるにも拘らず、世間に知られていない技術が多いという。阿部氏はそのような埋蔵技術を発掘し、ドンドン世の中に出していきたいと考えている。「自分の仕事が次世代の応援になれば嬉しいし、いまの日本経済の閉塞感を少しでも良くできるんじゃないかと思います」

JPN