ビジネスモデルとCSR、統合の時代へ −金融機関の挑戦−

    インタビューに答える大和証券グループCSR室金田晃一氏

    今日多くの企業がCSRを推し進める中、各企業のビジネスの特性を活かした貢献のあり方に関心が高まっている。企業のリソースとそのビジネスモデルを最大限に活かしたCSR活動は、その企業が培ってきた経験とノウハウをソーシャル・リターンとして社会に還元するだけではなく、同時に企業としての価値向上と新しいビジネスの創造といったエコノミック・リターンを期待することが出来る。こうしたビジネスと公益性のWin-Winの関係の構築は、企業内におけるCSR活動を継続的なものにし、また今日の商業活動の中で必須の要素となっていくだろう。

    ㈱大和証券グループ本社のCSR室専任担当として勤務する金田晃一氏は、大和証券グループの中でCSR活動の基盤を確立し、今や同社を金融業界におけるCSR分野で他の企業をリードしていく存在に仕立て上げた立役者の1人である。経済活動における金融機関の存在は大きく、その規模や方向性に大きな影響力を持つ。金田氏は、「そうした金融機関の特性と多様な金融の仕組みをCSR推進の手段として活用していくことで、金融機関が持続可能な社会の発展に与えるインパクトとその可能性を社会に可視化していきたい」と語る。

    実際、大和証券グループでは、近年、本業である証券の仕組みを活かして、排出権関連債券やワクチン債、企業が社会・倫理・環境といった社会的責任を果たしているかを投資基準にするSRI投資といった経済的リターンに加え、社会の持続可能性をも念頭に置いた商品のラインナップを増やしてきた。例えば、ワクチン債であるが、これは、大和証券グループが国際機関と協力して市場に出した社会配慮型の債券商品である。

    途上国では、毎年2,700万人の小児が資金不足によりワクチンの投与を受けられず、容易に予防可能な疾病により2−300万の子供が死亡している。この現実に対し、各国政府はワクチン投与のために20年間に渡って資金供与を約束しているが、ワクチン債とは、このODAの信用力を背景にして、個人投資家向けに債券を発行して資金を集め、当初より早い段階でワクチンの配布を可能にするという金融システムを活用したユニークな商品である。英国政府のイニシアティブによって設立された債券発行を行う予防接種のための国際金融ファシリティ(IFFIm)、財務を担当する世界銀行、予防接種プログラムを実践するGAVIアライアンス、そして日本の個人投資家向けに債券の販売を行う大和証券グループの協働によって、地球規模の開発問題に取り組んだ。

    大和証券グループの取り組みは、社会性の高い金融商品の開発や販売だけではなく、独自の寄付スキームを利用した開発支援にも及んでいる。未曾有の被害を出した2004年末のスマトラ沖地震・インド洋津波では、経営層からの積極的な理解も得て、「大和証券グループ津波復興基金」を設立し、10年間という長期的な復興支援を打ち出した。これは、公益性の高いコミュニティ型基金である公益信託アジア・コミュニティ・トラスト内に設置された基金で、事務局である中間支援NGOのアジア・コミュニティ・センター21との協働によって運営されている。

    金田氏は、「中間支援NGOと協働することにより、現場の包括的なニーズの把握と被災者支援を行う現場のNGOへの資金提供が可能になる」と言う。「大和証券グループ津波復興基金」では、インドネシア、インド、スリランカの3カ国において、子どもの心のケア、子どもの教育、マイクロファイナンスの3分野を支援している。特にマイクロファイナンスという手法を通じて、貯蓄の重要性とお金の管理について現地の女性を対象に啓発を行うことにより、経済的な自立と生活の安定が期待できる。

    こうしたCSR活動に対してステークホルダーから理解を得るためには、寄付金の用途に対する説明責任と透明性を明確にしなくてはならない。「寄付のトレーサビリティー(追跡可能性)を管理することが、ドナーである企業のステークホルダーに対する責任である」と金田氏は言う。大和証券グループでは、中間支援NGOを経由する形で、現地のNGOに対して定期的な報告書の提出を義務付けることにより、支援地域における活動のソーシャル・インパクトを確認している。また、そのような情報開示を適切に行っていくことにより、組織内と投資家からCSR活動に対する理解を得て、よき企業市民としての活動の拡大と発展を目指している。

    金田氏は「CSR活動には、NGOとの連携が欠かせない」と言う。NGOが持つ現場のノウハウや市民社会とのネットワークは、社会にとって意味のある活動を行う際に必須であることから、大和証券グループではNGOの声を真摯に汲み取った上で、協働プログラムを作成するよう心掛けている。例えば、「『ダイワSRIファンド』助成プログラム」のテーマ設定する際、パートナーである中間支援NGOの市民社会創造ファンドから、日本のNGO界の問題点のひとつとして、NGOの組織基盤の脆弱性について説明を受けた。そこで、大和証券グループでは、本プログラムを通じて、日本国内で「人間の安全保障」分野で活動するNGOの人材育成に取り組むことにした。具体的には、スタッフの人件費、研修費に加え、当該スタッフが常勤で働く際にNGOが団体として負担しなければならない社会保障費を中心にした支援形態をとっている。

    金融を通じた国際開発支援や生物多様性保全への取り組み、そして国内の市民社会の基盤強化といった大和証券グループのCSRへの本格的な取り組みには、組織としての対応に加え、2005年に入社した金田氏個人の果たす役割も大きい。大学卒業後ソニー(株)に入社し、欧州による対日通商規制への対応業務に従事した後、留学した英国の大学院で「多国籍企業による人間開発」というテーマを得て、CSRや途上国開発について深い興味を抱くようになった。帰国後、ソニー㈱を退社し、在京米国大使館経済部で対日規制緩和担当として、また、ブルームバーグテレビジョン㈱でアナウンサーとして活躍したが、このテーマを「業務を通じて実践する」目的で、1999年、ソニー㈱のコミュニティ・リレーション室に再入社し、NGOとの協働プログラムの策定や社員のボランティア推進プログラムの運営などに携わった。

    その後、CSR元年と言われる2003年からは、CSR/コンプライアンス担当として、ソニーグループの行動規範の策定、社内研修などを主導した。現在は大和証券グループ本社のCSR室専任担当として勤務する傍ら、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科で非常勤講師として「ソーシャルファイナンス」について教鞭を執る。また、CSRだけでなく、途上国開発、社会起業家、フェアトレードに関する国際会議などにも積極的に参加し、現在の世界の潮流と新たな刺激を国内のCSR業界へもたらしている。

    企業におけるCSRの高まりと同時にその業務に従事する人材も多様化してきている。金田氏のような民間企業における勤務経験に加えて、途上国支援についての知識やネットワークを有する人材を迎え入れている企業も出てきているが、「あくまでもCSRの主役は、商品の開発や営業など組織内の各部署であり、CSR関連部署は外部のステークホルダーからの期待・要請を敏感にキャッチして各担当部署にフィードバックする一方、各担当部署で実施されているCSR活動を自社のステークホルダーに対して適切に発信していくというコーディネーターとしての役割を担う。求められる人材になるためには、各ステークホルダーの声を真摯に聞く力と、ビジネスモデルに対する理解力の両方を磨いていくことが重要だ」と金田氏は語る。例えば、企業が途上国の貧困層向けのサービスをビジネス戦略の一環として行うBOP(Bottom of the Pyramid)ビジネスの可能性を探っていく際には、開発と収益の双方の視点からプログラムを提案することが出来る柔軟なマインドセットを持つ人材などが活躍していくだろう。

    大和証券グループの取り組みは、本業の金融システムを最大限に利用し、自社の強みを活かしたユニークなCSR活動のモデルである。現在多くの企業がCSRとの関り方を模索する中で、大和証券グループが実践している金融のアプローチとその発想の転換から学ぶことは多い。同時に、金融機関としての枠を超えて、新たな課題に挑戦し続けていく今後が楽しみである。JPN

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      Tomoko Tanabe

      Tomoko Tanabe has worked as a Devex correspondent fellow in Tokyo since May 2008, focusing on business–NGO partnerships and corporate social responsibility.

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